<第7回>資産運用と分散投資
50代に入ると住宅の取得や子どもの教育もほぼ一段落し、自分たち夫婦の老後のことを考え始める時期になります。現在の資産、今後定年までの貯蓄、退職金の額などリタイアメント後の生活を考える準備に入ります。前回の「受給世代のマネープラン」に関連して、今回は50代から年金受給者世代の資産運用について考えてみましょう。
50代に入ると住宅の取得や子どもの教育もほぼ一段落し、自分たち夫婦の老後のことを考え始める時期になります。現在の資産、今後定年までの貯蓄、退職金の額などリタイアメント後の生活を考える準備に入ります。前回の「受給世代のマネープラン」に関連して、今回は50代から年金受給者世代の資産運用について考えてみましょう。
さまざまな金融商品の中から自分に合った商品を選択することは容易なことではありません。
そこで金融商品の「安全性」「流動性」「収益性」の3つの性質を理解し、商品選択の基準にしましょう。
安全性が高いとは投資した元本が保証されている、預金保険制度などの保護の対象となっている商品などをいい、安全性が低いとは、元本割れの恐れがある、収益が得られず損失が発生するリスクの高い商品などをいいます。
金融商品の安全性をチェックするには、
(1)売却益や売却損の安全性はどうか
株式や債券は取引価格が日々変動し、売却のタイミングにより、売却益や売却損が発生します。また、外国株式、外国債券、外貨預金は為替によっても変動します。
一方、預金は金融機関が破綻をしない限りは元本が確保されています。このように金融商品の元本の額が変動するリスクにより商品を分類できます。
(2)インカムゲインの安全性はどうか
利息や配当などの収益(インカムゲイン)の安全性のことで、定期預金などは決められた利率で計算されますが、株式の配当金は、会社の業績により、減配や無配もあります。また、投資信託では運用実績により分配金が増減します。
(3)金融機関や発行企業の安全性はどうか
株式や債券は、その商品の変動リスクの他に発行をしている会社の倒産リスクがあります。万一倒産した場合は、価値がゼロになるリスクがあります。また、金融機関が破綻した場合も価値が下がる場合がありますので、預金保険制度の対象商品であるか確認も必要です。
安全性の比較的高い商品 | 預貯金、利率保証型保険、国債など |
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安全性の比較的低い商品 | 株式、株式投資信託、外国株式、外国債券、外貨預金など |
流動性とは、必要なときにすぐ現金化できるかどうか、換金手数料がかかるか否かなどをいいます。急な出費に備えるお金は、換金不能期間や換金手数料のない流動性の高い商品で保有する必要があります。
(1)換金不能期間の有無
外貨定期預金は原則として満期まで解約できません。また、中期国債ファンドやMMFは30日間換金できません。普通預金やMRFはいつでも必要なときに換金できます。
(2)換金手数料の有無
定期預金は途中解約すると利率が下がり、保険商品も解約控除が発生し、投資信託も解約手数料が必要な場合があります。このように、解約することにより価値が下がる商品は注意が必要です。
(3)解約までの期間や解約場所
株式の売買代金は約定日から起算して4営業日目でないと現金が入手できませんし、通知預金は2日前の連絡が必要です。また、解約場所もコンビニのCD・ATMでいつでも換金できる商品と特定の場所でしか解約できない商品があります。
流動性の比較的高い商品 | 普通預金、通常貯金、貯蓄預金、貯蓄貯金、MRFなど |
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流動性の比較的低い商品 | スーパー定期、定期預金、株式、債券など |
収益性とは、リターンの大きさをいいます。高い利回りが期待できるか、利率は単利か複利か、複利でも半年複利か1年複利かでも収益性が変わります。また、利率の表示が固定利率か変動利率かにより収益性に影響が出ます。
安全性・流動性・収益性のすべてが高い商品はありません。通常、安全性と収益性は反比例します。
リターンが大きいほどリスクも高くなります。収益性の高い商品は、元本を大きく割り込む危険性も高いので余裕資金で運用する必要があります。
収益性の比較的高い商品 | 株式、投資信託、外国株式、外国債券、外貨預金など |
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収益性の比較的低い商品 | 預貯金、MRF、MMF、国債、利率保証型保険など |
投資の世界には、「卵は一つのカゴに盛るな」という格言があります。もし、カゴを落としたらすべての卵が割れてしまうからです。投資も一つの資産や一つの銘柄に集中投資をして、価格が急落すると大きな損失を被る恐れがあります。リスクを分散するために、なるべく値動きの異なる商品に分けて投資をすることを分散投資といいます。長期投資と分散投資は、資産運用をするうえで基本中の基本です。
資産運用をしていくうえでは、さまざまなリスクがあります。これらのリスクを回避するために、分散投資が必要になるのです。それでは、どのようなリスクがあるのでしょうか。
(1)価格変動リスク(株式など)
投資をした商品の価格が変動するリスクです。市場で売買される商品は価格変動リスクがつきものです。
(2)金利リスク(預貯金、債券など)
金利の変動によるリスクです。預貯金は金利が低下すればうけとり利息は減少しますし、債券は金利が上昇すれば債券価格は下落します。
(3)為替リスク(外国株式、外国債券、外貨預金など外貨建ての商品)
為替レートの変動により発生するリスクです。円安でドルを買い、円高時に円に買い戻すと為替差損が生じます。
(4)流動性リスク(不動産、非上場株式など)
現金が必要になったときに速やかに換金できないリスクです。速やかに売却や解約できないことにより、不利益を被ります。
(5)信用リスク(株式、債券など)
投資先の企業や金融機関の信用に関するリスクです。企業の倒産や金融機関の破綻により、利息の不払いや元本回収が不能になる状態をいいます。最近ではデフォルトリスクともいいます。
(6)カントリーリスク(外国株式、外国債券、外貨預金など外貨建ての商品)
投資先の国の政治や経済などがもたらすリスクです。情勢が不安定な国やエマージング諸国への投資は、リターンは先進諸国に比べ高い場合が多くなりますが、カントリーリスクも高くなる可能性があります。
(7)インフレリスク(預貯金など)
物価の上昇により資産が目減りするリスクです。預貯金などは安全性は高くなりますが利率が低く、物価の上昇が利率を上回る状況になると資産の価値は減少することになります。
分散投資には、商品の分散以外にもいくつかの分散があります。
(1)資産の分散
国内株式、外国株式、国内債券、外国債券を基本4資産といいます。このほかに不動産投資やオルタナティブ投資などがあります。どの資産にどの割合で投資するかにより、運用の成果は大きく左右されます。これを資産分散効果といいます。
(2)銘柄の分散
同じ資産の中でどのように分散するかを銘柄分散といいます。業界や企業規模や企業の成長性などにより銘柄分散を図りますが、一般的に資産配分ほど分散効果は高くありません。
(3)地域分散
国や地域などによる分散をいいます。先進国投資と新興国投資の分散、日本、米国、英国、中国などの国別分散などがあります。最近では将来の経済成長を見込んで中国、ロシア、インドなどの新興国への投資が増加しています。
(4)通貨分散
円、ドル、ユーロなど為替変動リスクを回避するため投資する通貨の分散が図られています。
(5)時間分散
投資する時間を分散する手法です。投資の基本は「安値で買って、高値で売りぬく」ことですが、今買ったものがその後に値下がりするのか値上がりするのかはなかなか当たりません。確実に安値で買うことは、事実上不可能です。そこで、一度に資金を投入するのではなく、何度かに分けて商品を購入することを時間分散といいます。
資産をどのように運用するかは、人によってさまざまです。今までに積み上がった資産の額、老後の予定収入、家族構成、投資に関する自分の考え方や自分の性格、金融以外の資産状況、住宅ローンの残債などいろいろな条件によって個々人のリスク許容度は違ってきます。
全国銀行協会の下記のホームページでは、簡単なリスク許容度診断を行っています。
https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-c/7222/
診断結果は、安全性重視タイプ、安定成長タイプ、バランス運用タイプ、積極運用タイプの4つに分類されます。あなたはどのタイプでしょう? 資産運用の参考にしてみてはいかがですか。
リスク許容度は上記のとおり個々人によって違いますが、一般的に若年層、中年層、高年層で資産配分におのおの特徴があります。若年層では、長期運用が可能なため、収益性資産の配分を多くしてハイリターンを目指すことができます。高年層は、収益性資産に投資して損失を被った場合に挽回のチャンスが限られています。したがって、年齢とともに収益性資産を減少し、安全性資産を増加させる配分が必要となります。
また、高齢になるにしたがって、病気や介護などの費用やバリアフリー、リフォームなどの出費も増加するので、流動性資産を多めに確保する必要があります。収益性資産では毎月分配型の投資信託を活用することにより、生活費の足しにすることができます。安全性資産は多めに持つことになりますが、運用期間はあまり長くない商品を選択するほうがよいでしょう。