<第6回>受給者世代の資産運用の考え方
定年後の資産・収入には、定年までに蓄えた資産、定年時の退職金、定年後に受け取る公的年金、企業年金、私的年金などがあります。資産運用には、まず、自分の資産がどのくらいあるのか、年金収入が毎月いくらくらいになるのかを知る必要があります。今回は老後の生活費、老後のイベントにかかる費用を予測し、資産運用の基本的な考え方についてみてみましょう。
定年後の資産・収入には、定年までに蓄えた資産、定年時の退職金、定年後に受け取る公的年金、企業年金、私的年金などがあります。資産運用には、まず、自分の資産がどのくらいあるのか、年金収入が毎月いくらくらいになるのかを知る必要があります。今回は老後の生活費、老後のイベントにかかる費用を予測し、資産運用の基本的な考え方についてみてみましょう。
定年時の我が家の資産と負債を具体的に把握するために、家計のバランスシートを作るとよいでしょう。図-1のように定年退職時のバランスシートを作ってみましょう。この例は、定年時までの金融資産が1,500万円ある例です。
(単位:万円)
資 産 | 負 債 | ||||
---|---|---|---|---|---|
金融資産 | 定期預金 | 500 | 借入金 | 住宅ローン | 1,000 |
国債 | 500 | ||||
株式 | 200 | ||||
投資信託 | 300 | 純資産 | |||
退職金 | 2,000 | 純資産 | 資産-負債 | 5,700 | |
その他資産 | 自宅不動産 | 3,000 | |||
マイカー | 100 | ||||
ゴルフ会員権 | 100 | ||||
合 計 | 6,700 | 合 計 | 6,700 |
資産は金融資産とその他の資産に分かれます。上記の例では、その他の資産のうち、自宅不動産とマイカーは生活するうえで必要な資産のため、原則的には換金できません。ゴルフの会員権は、老後もゴルフを楽しみたい人にとっては売却することはできないでしょう。また、退職金2,000万円のうち、1,000万円は住宅ローンの返済に充当するとなると、実質的に退職金は1,000万円になります。その結果、上記の例では、定年時の実質金融資産は退職までに蓄えた1,500万円と退職金の1,000万円の合計2,500万円になります。
老後の日常の生活費のほかに、次のようなイベントにかかる費用が見込まれます。
(単位:万円)
定年記念の海外旅行費用 | 200 |
---|---|
マイカーの更新費用(2回) | 300 |
子供の結婚費用の支援 | 300 |
孫の誕生お祝い(2人) | 200 |
本人と配偶者の葬儀費用 | 500 |
合計 | 1,500 |
どのようなイベントがあるかは、個々人の家族構成や考え方、趣味などによっても異なりますので、図-2以外のイベントもありますし、図-2のイベントが該当しない人もいると思います。
上記のモデル例の場合、定年記念の海外旅行に200万円を計画しています。また、ある調査によると、結婚費用と新生活の準備費用のうち、親の援助による額が約300万円となっています。さらに、(財)日本消費者協会の調査から、葬儀費用を1人約250万円で見積もっています。
次に、定年後の収入が公的年金と企業年金であるケースの年間収支表を作成してみましょう。
公的年金の月額22.2万円は、厚生労働省の試算値で厚生年金の加入期間が40年の平均的なサラリーマンと専業主婦の2人でもらえる公的年金額です。内訳は2人分の基礎年金が月額13万円、厚生年金の報酬比例部分が9.2万円となります。企業年金は月額6.7万円を終身年金でうけとるものとします。
図―3収支表例の「高齢者世帯の必要生活費」は総務省の平成30年家計調査年報より作成しています。その結果、支出合計は月額264千円となり、収入合計289千円に対して25千円の剰余がでます。一方、「ゆとりある老後の生活費」は生命保険文化センターの令和元年度生活保障に関する調査による支出合計361千円をもとに作成しています。すると、支出合計は月額361千円ですので、収入合計289千円に対して72千円が不足となります。
(単位:万円)
収 入 | 高齢者世帯の必要生活費 | ゆとりある老後の生活費 | |||
---|---|---|---|---|---|
公的年金(月額) | 222 | 食料 | 65 | 食料 | 65 |
企業年金 (確定給付、月額) |
67 | 住居 | 14 | 住居 | 14 |
光熱・水道 | 20 | 光熱・水道 | 20 | ||
家具・家事用品 | 9 | 家具・家事用品 | 9 | ||
被服 及び 履物 | 6 | 被服 及び 履物 | 6 | ||
保健 医療 | 15 | 保健 医療 | 15 | ||
交通・通信 | 28 | 交通・通信 | 28 | ||
教養 娯楽 | 24 | 教養 娯楽 | 24 | ||
その他の消費支出 | 54 | その他の消費支出 | 151 | ||
消費支出計 | 235 | 消費支出計 | 332 | ||
非消費支出 | 29 | 非消費支出 | 29 | ||
収入合計 | 289 | 支出合計 | 264 | 支出合計 | 361 |
収支差額 | 25 | 収支差額 | −72 |
前述のとおり、上記のモデル例では、定年時の金融資産2,500万円からイベント支出費用(図-2)の1,500万円を差し引くと1,000万円になり、これが、日常生活費にまわせる金額ということになります。ゆとりある老後生活を20年間送ろうと考えた場合、(-7.2万円×12ヵ月×20年=-1,728万円)となり、大きく不足してしまうことになります。
老後は現役時代と比べると収入が限られます。持っている資産が生活費の補てんなどで減っていく一方にならないように工夫することが大切です。以前は、退職金や退職までの蓄えを定期預金に預けておけば、ある程度の利息がつく時代がありました。毎年利息が入り、年金と合わせて生活のための収入源にもなっていました。しかし、最近の低金利では、定期預金の利息で生活費の補てんをすることはほとんど不可能です。自分に応じたリスクをとって、お金に働いてもらい、老後の生活費の補てんなどに充てるようにするとよいでしょう。
退職時点の退職金を含めた資産をより効率的に運用するためにどのように配分するかを考えてみましょう。
流動性資金としていつでも用意できるようにしておくお金は、現金または普通預金にしておきましょう。病気などの急な出費に備えるためには3ヵ月分の支出に相当する100万円程度はいつも手元に置いておくといいでしょう。
使用予定資金は、使用する時期が決まっている資金なので、その時期に満期を迎える定期預金や国債にしておくといいでしょう。また、時期がはっきりしない場合は、リスクの比較的少ない公社債で運用する投資信託などで運用するという選択肢もあります。
当面使用する予定のない余裕資金の場合は、ある程度のリスクをとって運用しても大丈夫でしょう。また、毎月分配型の投資信託に投資し、毎月分配金を受け取る方法があります。ただし、基準価格(投資信託の値段)は毎日変動し、元本を下回ることがありますので定期的に基準価格の変動をチェックするようにしましょう。
通常リスクとは、危険という意味ですが、資産運用でリスクという場合は、収益のブレの大きさを意味します。したがって、価格がプラスにもマイナスにも大きく動く金融商品がリスクの高い商品ということになります。一方、リターンは投資や運用によって得られる収益のことです。リターンが同じならリスクの値がなるべく小さいほうが安全ということになりますが、残念ながらローリスクでハイリターンな金融商品はありません。リスクが小さければリターンも小さく、リターンが大きければリスクも大きいということになります。
資産運用を考えた場合、リスクを低減する方法として、なるべく同じ動きをしないものを組み合わせることが安全な運用といえます。たとえば、資産の全部を株式で運用すると、株価が順調に上昇しているときは高いリターンを得ることができますが、下落場面では大きな損失を被ることになります。株式で運用する場合には、株式と同じ値動き(正の相関関係)をする商品ではなく、株式の値動きと反対の動き(負の相関関係)をする商品を組み合わせることがより安全な運用といえます。一方が下落した局面でも他の一方が上昇していれば、リターンのブレ幅が抑えられ、リスクを低減させることができます。
一般的に株式と債券は、負の相関関係にあります。株が上がると債券は下がるという逆の動きをします。しかし、最近は経済のグローバル化により、2008年後半のように、株も債券もすべての金融商品が一斉に下落する場合があります、各商品の相関関係が以前より強まっているといえますので、資産運用には慎重に取り組むようにすることが大切です。
運用の際には、自分のリスク許容度(リスクがとれる範囲)を考え、金融資産をどういう組み合せ比率で配分するか(分散するか)がとても重要になります。
自分のリスク許容度を考え、元本確保型の預貯金に40%、ハイリスクの株式に30%、ローリスクの債券に30%の割合で配分し資産運用をスタートしたとしましょう。これがあなたにとって基本的な資産配分となります(図-4①)。しかし資産配分のバランスは運用環境により徐々に崩れていきます。この崩れた資産配分を元のバランスに修正することを「リバランス」といいます。
人はよく、株式が上昇局面(同②)ではまだ株は上がるだろうと買い増したり、株式の下落局面(同③)ではまだ下がるかもしれないと不安になり安値で売却したりします。しかし、リバランスはその逆です。上がった株を売却し、元の資産配分(同①)に戻します。下落した場合は、下がった株の比率を高めるために株式を購入し、元の資産配分(同①)に戻します。つまり、リバランスは、値上がりした資産を売却し、下がった資産を買い増すという行動なのです。リバランスにより、資産運用の一貫性を保ち、配分の偏りを修正することにより、長期的にバランスのとれた安定した運用ができることになります。
受給者世代は、余裕資産で安全運用をするのが一般的です。また、資産運用の際は、自分のリスク許容度を確認し、分散投資を基本として、リバランスをしていくことも大切になります。まずは、現状の自分の資産状況を確認したうえで、慎重に資産配分を考えてみることが重要でしょう。